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垣ほなす人は言へども高麗錦
紐解き開けし君ならなくに

歌の意味
垣根のように取り巻いて人々はあれこれ言うけれども、高麗錦の紐を解き開けて共に寝たあなたではないのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2405

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 まわりの人々が垣根のように取り巻いて二人の仲を噂するけれども、まだ紐を解き合って共寝をした仲ではないのにと、事実でない噂を嘆いた歌である。身に覚えのない噂に立てられるもどかしさと、まだ遂げていない恋の思いとが重なっている。
 次歌も「高麗錦紐解き開け」の句を共有しており、二首は同じ句によって結びつけられている。本歌が紐を解いていないのに噂が立つと嘆くのに対し、次歌は紐を解き開けて逢うことを求める歌であり、同じ句を用いて恋の異なる局面を詠み分けている。また本巻の第二千三百九十七首と第二千三百九十八首の「言の繁けく」と同じく、人の噂に悩む恋の歌である。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「垣ほなす」は、垣根のように、の意である。人々が垣根のように取り囲んで、あれこれと噂するさまを喩えている。
 二句「人は言へども」は、人は噂するけれども、の意である。逆接の「ども」によって、噂と事実との食い違いを示す下の句へと続けている。
 三句「高麗錦」は「紐」にかかる枕詞である。高麗から伝わった錦で、その錦で作った紐の意から紐を導く。
 四句「紐解き開けし」は、衣の紐を解き開けた、の意である。男女が互いの紐を解くことは共寝をすることを表す。過去の助動詞「き」の連体形「し」が結句の「君」を修飾している。
 結句「君ならなくに」は、あなたではないのに、の意である。「なくに」は打消の「ず」のク語法に「に」が付いた形で、噂が事実でないことを嘆きをこめて言い結んでいる。

かきほ:垣、垣根
こまにしき:高麗から伝来した錦、「紐」にかかる枕詞となる
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
思ひ寄り見ては寄りにしものにあれば 一日の間も忘れて思へや
次の歌
高麗錦紐解き開けて夕だに 知らずある命恋ひつつかあらむ