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高麗錦紐解き開けて夕だに
知らずある命恋ひつつかあらむ

歌の意味
高麗錦の紐を解き開けて、今日の夕べのことさえわからない命であるのに、恋い続けてばかりいられようか。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2406

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 高麗錦の紐を解いて逢うことを願い、夕べまで生きているかさえわからないはかない命なのに、ただ恋い続けているだけでいられようかと詠んだ歌である。命のはかなさを持ち出して、今すぐにでも逢いたいという切迫した思いを訴えている。解釈には諸説があるが、限りある命を思うからこそ恋を遂げたいと願う心が中心にある。
 前歌と「高麗錦紐解き開け」の句を共有している。前歌が紐を解いていないのに噂が立つと嘆いたのに対し、本歌は紐を解き開けて逢うことを求めており、同じ句を用いながら思いの向きが異なっている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「高麗錦」は「紐」にかかる枕詞である。前歌の三句と同じ語で、二首を結びつけている。
 二句「紐解き開けて」は、衣の紐を解き開けて、の意である。共寝をすることを表し、前歌の四句とほぼ同じ句である。
 三句「夕だに」は、今日の夕べさえ、の意である。副助詞「だに」は、せめてそれだけでもという最小限のものを示し、ごく近い先のことさえわからないことを強めている。
 四句「知らずある命」は、わからないでいる命、の意である。夕べまで生きているかもわからない、はかない命をいう。字余りの句である。
 結句「恋ひつつかあらむ」は、恋い続けてばかりいられようか、の意である。係助詞「か」が反語を表し、推量の助動詞「む」の連体形で結んでいる。「つつ」は動作の継続を表す。

こまにしき:高麗から伝来した錦、「紐」にかかる枕詞となる
ひも:衣の下紐。男女が解き交わすことは共寝を表す
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
垣ほなす人は言へども高麗錦 紐解き開けし君ならなくに
次の歌
百積の船隠り入る八占さし 母は問ふともその名は告らじ