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百積の船隠り入る八占さし
母は問ふともその名は告らじ

歌の意味
百石も積む大船が隠れ入る浦ではないが、八占をして母が問いただしても、あの人の名は決して告げまい。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2407

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 母が占いをしてまで恋の相手を問いただしても、その人の名は決して明かすまいと、秘めた恋を守り抜く決意を詠んだ娘の歌である。恋人の名を口にすることは慎むべきこととされており、母に知られてはならない恋の緊張が伝わってくる。
 上の二句は大船が浦に隠れ入るさまを描いて、同じ音を持つ「八占」の「うら」を導く序詞となっている。大船が浦深く隠れるさまは、恋を心の奥深くに隠す思いとも響き合っている。母の監視を受ける娘の恋は万葉集の恋の歌にしばしば見える題材である。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「百積の」は、百石を積むほどの大きな、の意である。大船を言い表す語で、初句と二句とで三句の「八占」を導く序詞を作っている。
 二句「船隠り入る」は、船が隠れて入る、の意である。大船が浦に入って隠れるさまから、同じ音の「うら」を導き、序詞はここまでである。
 三句「八占さし」は、さまざまな占いをして、の意である。「八」は数の多いことを表し、母が手を尽くして娘の恋の相手を知ろうとするさまを表している。
 四句「母は問ふとも」は、母が問いただしても、の意である。逆接仮定の接続助詞「とも」によって、どれほど問われてもという強い意志を示している。
 結句「その名は告らじ」は、その人の名は告げまい、の意である。打消意志の助動詞「じ」で強く言い切り、恋人を守ろうとする決意を示して結んでいる。

ももさか:百石を積むほど大きいこと
やうら:さまざまな占い
のる:口に出して言う、告げる
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
高麗錦紐解き開けて夕だに 知らずある命恋ひつつかあらむ
次の歌
眉根掻き鼻ひ紐解け待つらむか いつかも見むと思へる我れを