恋ふること慰めかねて出でて行けば
山を川をも知らず来にけり
- 歌の意味
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恋しい思いを慰めきれずに家を出て行くと、山も川も気づかないうちに来てしまったことだ。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2414
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
恋しさを晴らすことができず、家を出て歩いて行くうちに、山も川も気づかずに越えて来てしまったと詠んだ歌である。恋に心を奪われて我を忘れたさまを、通ってきた山や川を覚えていないという具体的な姿で表しており、恋の思いの激しさがよく伝わる。
本歌は人麻呂歌集の「正に心緒を述ぶ」の歌群の最後に置かれ、次歌の第二千四百十五首からは「物に寄せて思ひを陳ぶ」の歌群が始まる。山や川を詠み込んだ本歌は、景物に寄せる次の部立への橋渡しのような位置にある。
作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。
初句「恋ふること」は、恋しく思うことを、の意である。
二句「慰めかねて」は、慰めることができずに、の意である。「かぬ」は動詞の連用形に付いて、〜しきれない意を表す。
三句「出でて行けば」は、家を出て行くと、の意である。六音の字余りの句で、「ば」は順接の確定条件を表す。
四句「山を川をも」は、山も川も、の意である。「を」を重ね、係助詞「も」を添えて、越えてきた山や川をまとめて言い表している。
結句「知らず来にけり」は、それと気づかずに来てしまったことだ、の意である。完了の助動詞「ぬ」と、気づきの詠嘆を表す「けり」によって、我に返った驚きを表している。
なぐさむ:心を晴らす、慰める
こふ:異性を恋い慕う
- 作者
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柿本人麻呂歌集
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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故もなく我が下紐を解けしめて 人にな知らせ直に逢ふまでに
- 次の歌
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娘子らを袖振る山の瑞垣の 久しき時ゆ思ひけり我れは