紐鏡能登香の山も誰がゆゑか
君来ませるに紐解かず寝む
- 歌の意味
-
紐鏡の「な解きそ」という名を持つ能登香の山も、誰のためにそう言うのか。あなたがいらっしゃったのに、紐を解かずに寝たりしようか。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2424
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
「解くな」という名を負う能登香の山があるが、その名は誰のためにあるのか、せっかくあなたが来てくださったのに、紐を解かずに寝ることなどしないと詠んだ歌である。山の名を「な解きそ」という禁止の言葉に聞きなし、それをはねのけて恋人を迎えようとする心を、ことば遊びを交えて表している。
山に寄せて思いを述べる歌で、前の山を詠む歌に続いている。本巻の第二千四百八首、第二千四百九首、第二千四百十三首では紐が解けることが恋の前兆として詠まれていたが、本歌では紐を自ら解いて恋人を迎えることが詠まれている。能登香の山の所在については諸説があり、定まっていない。
作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。
初句「紐鏡」は「能登香」にかかる枕詞である。鏡の裏の紐は解かないものであることから、「な解きそ(解くな)」の意で「のとか」の音に続けたものとされる。
二句「能登香の山も」は、能登香の山も、の意である。山の名に「な解きそ」の響きを聞き取り、紐を解くなと言っているかのように見立てている。
三句「誰がゆゑか」は、誰のためにか、の意である。係助詞「か」は結句の「む」と係り結びをなし、反語を表す。
四句「君来ませるに」は、あなたがいらっしゃったのに、の意である。「来ませる」は「来」に尊敬の「ます」と存続の「り」が付いた形で、「に」は逆接を表す。
結句「紐解かず寝む」は、紐を解かずに寝ようか、いや解いて寝よう、の意である。三句の係助詞「か」を受けて連体形「む」で結んでいる。初句の「紐鏡」と同じ「紐」の語で結び、首尾を呼応させている。
ひもかがみ:裏に紐の付いた鏡。「ひもかがみ」の形で「能登香」にかかる枕詞となる
ゆゑ:わけ、ため
- 作者
-
柿本人麻呂歌集
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
道の後深津島山しましくも 君が目見ねば苦しかりけり
- 次の歌
-
山科の木幡の山を馬はあれど 徒歩より我が来し汝を思ひかねて