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宇治川の水泡さかまき行く水の
事かへらずぞ思ひ染めてし

歌の意味
宇治川の水の泡が逆巻いて流れて行く水のように、もう後へは返らない思いで、私は恋い初めてしまったのだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2430

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 宇治川の激しい流れが泡を逆巻いて下り、二度と戻ることがないように、ひとたび思い初めた恋はもう引き返すことができないと詠んだ歌である。流れ去る水の勢いに、止めようのない恋心の始まりを重ねている。
 前歌まで続く宇治川の歌の一首で、渡りの瀬の速さを詠んだ第二千四百二十八首と同じく、宇治川の流れの激しさを恋に寄せている。本歌は上三句を序とし、流れる水の性質から「かへらず」を導く趣向である。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「宇治川の」は、山背の宇治を流れる川をいう。流れの速い川として知られ、前の歌々に続いて取り上げられている。
 二句「水泡さかまき」は、水の泡が逆巻いて、の意である。激しい水勢を目に見える形で描いている。
 三句「行く水の」は、流れて行く水のように、の意である。初句からここまでが序詞で、流れ去って戻らない水の様子から「かへらず」を導いている。
 四句「事かへらずぞ」は、事が元には返らず、の意で、もう後戻りはできないことをいう。係助詞「ぞ」で強め、結句と係り結びをなしている。
 結句「思ひ染めてし」は、思い初めてしまった、の意である。過去の助動詞「き」の連体形「し」で、四句の「ぞ」を受けて結んでいる。

みなあわ:水の泡
さかまく:水が逆らうように渦を巻いて流れる
おもひそむ:恋しく思いはじめる
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
はしきやし逢はぬ子ゆゑにいたづらに 宇治川の瀬に裳裾濡らしつ
次の歌
鴨川の後瀬静けく後も逢はむ 妹には我れは今ならずとも