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沖つ裳を隠さふ波の五百重波
千重しくしくに恋ひわたるかも

歌の意味
沖の藻を隠し続けて寄せる波の、幾重にも重なる波のように、千重にもしきりに恋い続けることだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2437

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 沖の藻を覆い隠しながら幾重にも寄せる波のように、絶え間なく重ねて恋い続けていると詠んだ歌である。次々と押し寄せる波の重なりに、止むことのない恋心を寄せている。
 「しくしくに」は本巻の第二千四百二十七首にも「宇治川の瀬々のしき波しくしくに」と見え、川の波と海の波とで同じように重なり寄せる恋を詠んでいる。本歌は「五百重」から「千重」へと数を重ねて、恋の思いの深さを表している。なお原文には「奥藻」とあり、初句の「沖つ裳」は沖の藻の意である。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「沖つ裳を」は、沖の藻を、の意である。「つ」は「の」にあたる古い連体助詞で、本文では「裳」の字をあてているが、海中の藻をいう。
 二句「隠さふ波の」は、隠し続ける波の、の意である。「隠さふ」は「隠す」に継続を表す「ふ」が付いた形で、波が絶えず藻を覆う様子を描いている。
 三句「五百重波」は、幾重にも重なる波の意である。初句からここまでが序詞で、重なり寄せる波の様子から次の「千重しくしくに」を導いている。
 四句「千重しくしくに」は、千重にもしきりに、の意である。三句の「五百重」を受けてさらに数を大きくし、恋の思いが重なり続けることを表している。
 結句「恋ひわたるかも」は、恋い続けることだ、の意である。「わたる」は時を経て続ける意を添え、詠嘆の助詞「かも」で結んでいる。

おきつも:沖の海中に生える藻
いほへなみ:幾重にも重なって寄せる波
こひわたる:恋い続ける
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
大船の香取の海にいかり下ろし いかなる人か物思はずあらむ
次の歌
人言はしましぞ我妹綱手引く 海ゆまさりて深くしぞ思ふ