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人言はしましぞ我妹綱手引く
海ゆまさりて深くしぞ思ふ

歌の意味
人の噂はしばらくの間のことだよ、我が妻よ。綱手を引く海よりもまさって、深くあなたを思っている。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2438

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 人の噂に悩む恋人に向かって、噂などしばらくの間のことだと慰め、自分は海よりも深くあなたを思っていると励ます歌である。噂を気にする相手を思いやりつつ、自らの愛情の深さを海に寄せて誓っている。
 前の歌々の波や海の景を受けて、本歌は海の深さそのものを思いの深さの尺度としている。噂の短さと思いの深さとを対比させ、変わらぬ心を強く打ち出したところに特色がある。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「人言は」は、人の噂は、の意である。恋を妨げるものとして、万葉集の恋の歌にしばしば詠まれる語である。
 二句「しましぞ我妹」は、しばらくの間だけだよ、我が妻よ、の意である。「しまし」はしばらくの意で、係助詞「ぞ」で強めて言い切り、相手に呼びかける二句切れとなっている。
 三句「綱手引く」は「海」にかかる枕詞的な修飾語である。浅瀬で綱をつけて舟を引くことから、海を導いている。
 四句「海ゆまさりて」は、海よりもまさって、の意である。助詞「ゆ」はここでは比較の基準を表している。
 結句「深くしぞ思ふ」は、深く思っている、の意である。副助詞「し」と係助詞「ぞ」で強め、動詞「思ふ」の連体形で結ぶ係り結びとなっている。

ひとごと:他人の噂
わぎも:わが妹。男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
つなで:舟を引くための綱
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
沖つ裳を隠さふ波の五百重波 千重しくしくに恋ひわたるかも
次の歌
近江の海沖つ島山奥まけて 我が思ふ妹が言の繁けく