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ぬばたまの黒髪山の山菅に
小雨降りしきしくしく思ほゆ

歌の意味
黒髪山の山菅に小雨が降りしきるように、しきりにあの人のことが思われる。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2456

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 黒髪山の山菅に小雨が絶え間なく降りしきるように、恋人のことがしきりに思われてならないと詠んだ恋の歌である。しとしとと降り続く雨の景を序として、止むことのない恋しさを音の重なりによって印象深く表している。
 本歌から雨に寄せる歌が続く。次歌の第二千四百五十七首は三句に「小雨降りしく」を持ち、本歌の四句「小雨降りしき」と同じ景を詠んでいる。本歌が降りしきる雨を絶えない恋しさにたとえたのに対し、次歌はその雨の中で恋人を呼び寄せようとしている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「ぬばたまの」は、黒いものや夜にかかる枕詞で、ここでは「黒髪山」の「黒」にかかる。ぬばたまはヒオウギの黒い実をいう。
 二句「黒髪山の」の黒髪山は、奈良市北部の山とされる。枕詞と山の名とで黒い色を重ねている。
 三句「山菅に」は、山に生える菅に、の意である。山菅はヤブランのこととする説がある。
 四句「小雨降りしき」は、小雨が降りしきり、の意である。上四句が序詞となり、「降りしき」の「しき」の音を重ねて結句の「しくしく」を導いている。
 結句「しくしく思ほゆ」は、しきりに思われる、の意である。「しくしく」は次々と重なり続くさまをいい、「思ほゆ」は自然と思われる意で、抑えようのない恋しさを表している。

ぬばたま:ヒオウギの黒い実。「ぬばたまの」は黒や夜にかかる枕詞となる
やますげ:山に生える菅。ヤブランのこととする説がある
ふりしく:絶え間なく降る
おもほゆ:自然と思われる
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
我がゆゑに言はれし妹は高山の 嶺の朝霧過ぎにけむかも
次の歌
大野らに小雨降りしく木の下に 時と寄り来ね我が思ふ人