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大野らに小雨降りしく木の下に
時と寄り来ね我が思ふ人

歌の意味
広い野に小雨が降りしきる、その木の下に、ちょうどよい時だと寄って来てほしい、私の思う人よ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2457

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 広い野に小雨が降りしきる中、雨宿りの木の下へ、よい折だと思って寄って来てほしいと、恋しい人に呼びかけた恋の歌である。雨を避けて身を寄せる木の下を逢う場所に見立て、恋人の訪れを待ちわびる心を素朴に詠んでいる。
 前歌に続き雨に寄せる歌である。二句の「小雨降りしく」は前歌の四句「小雨降りしき」と同じ景を受けており、前歌が雨を絶えない恋しさのたとえとしたのに対し、本歌は雨の降る野を逢瀬の場として描いている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「大野らに」は、広い野に、の意である。「ら」は語調を整える接尾語である。
 二句「小雨降りしく」は、小雨が絶え間なく降る、の意で、次の「木の下」にかかる連体形である。前歌の四句と同じ語を用いている。
 三句「木の下に」は、木の下に、の意で、雨を避けて身を寄せる場所を示している。
 四句「時と寄り来ね」は、よい折だとして寄って来てほしい、の意である。「時と」はちょうどよい時として、の意で、「ね」は相手に望む気持ちを表す終助詞である。
 結句「我が思ふ人」は、私の思う人よ、の意である。呼びかけの句を最後に置く倒置の形で、体言止めとなっている。

おほの:広々とした野
ふりしく:絶え間なく降る
よりく:近寄って来る
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
ぬばたまの黒髪山の山菅に 小雨降りしきしくしく思ほゆ
次の歌
朝霜の消なば消ぬべく思ひつつ いかにこの夜を明かしてむかも