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山背の泉の小菅なみなみに
妹が心を我が思はなくに

歌の意味
山背の泉の小菅が並んで生えるように、並一通りに、あの子の心を私は思っているのではないのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2471

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 あの子の心を並一通りに思っているのではないと、自分の恋の真剣さを訴えた歌である。泉の地に並び生える小菅の「なみ」から「なみなみ」を言い起こし、ありふれた思いではないことを強調している。
 物に寄せて思ひを陳ぶ歌の一首で、前歌に続いて小菅に寄せた歌である。前歌が隠しきれずにあふれる恋を詠んだのに対し、本歌は並々ならぬ思いの深さを訴えており、同じ小菅を序に用いながら趣を変えている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「山背の」は、山背国のことで、今の京都府南部にあたる。
 二句「泉の小菅」は、山背国の泉の地、泉川(今の木津川)のあたりに生える小菅である。初句からここまでが序詞で、小菅が並んで生えるさまから、「なみ」の音を重ねて次の「なみなみに」を導いている。
 三句「なみなみに」は、並一通りに、ありふれた程度に、の意である。原文では「凡浪」と書かれている。
 四句「妹が心を」は、あの子の心を、の意である。恋しい相手の心を大切に思っていることを示している。
 結句「我が思はなくに」は、私は思っていないのに、の意である。「なくに」は打消の助動詞「ず」のク語法に助詞「に」が付いた形で、詠嘆を込めて言い終えている。

いも:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
こすげ:菅。「こ」は接頭語
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
港にさ根延ふ小菅ぬすまはず 君に恋ひつつありかてぬかも
次の歌
見わたしの三室の山の巌菅 ねもころ我れは片思ぞする