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茅渟の海の潮干の小松ねもころに
恋ひやわたらむ人の子ゆゑに

歌の意味
茅渟の海の潮の引いた浜の小松の根のように、ねんごろに心を込めて恋い続けることになるのだろうか、他人の大切な娘であるのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2486

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 本歌は、直前の第二千四百八十六首の左注に「或本の歌に曰く」として記された別伝の歌である。茅渟の海の潮干の浜に生える小松の根から「ねもころに」を言い起こし、他家の娘をこれからも心を込めて恋い続けることになるのだろうかと、先の見えない恋を思いやっている。
 本歌との異同は、二句が「浜辺の小松」に対して「潮干の小松」、三句が「根深めて」に対して「ねもころに」、四句が「我れ恋ひわたる」に対して「恋ひやわたらむ」となっている点である。本歌が恋い続けている今を言い切るのに対し、別伝は疑問の形でこれからも続く恋を思いやっており、詠み口に違いがある。「ねもころ」の語は本巻の第二千四百七十二首、第二千四百七十三首にも見られる。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「茅渟の海の」は、和泉国の沿岸の海、今の大阪湾の南部をいう。六音の字余りの句で、本歌と同じである。
 二句「潮干の小松」は、潮の引いた浜に生える小さな松の意である。初句からここまでが序詞で、小松の根から同音を含む次の「ねもころに」を導いている。
 三句「ねもころに」は、ねんごろに、心を込めて、の意である。本歌の「根深めて」にあたる句である。
 四句「恋ひやわたらむ」は、恋い続けることになるのだろうか、の意である。係助詞「や」を受けて推量の助動詞「む」が連体形で結ぶ係り結びで、ここで句切れとなる。
 結句「人の子ゆゑに」は、他人の娘であるのに、の意で、本歌と同じである。倒置によって、恋の相手が思うにまかせない人であることを最後に示している。

ちぬのうみ:和泉国の沿岸の海。今の大阪湾の南部
しほひ:潮が引くこと、潮の引いた浜
ひとのこ:他人の子。親が大切にしている他家の娘をいう
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
茅渟の海の浜辺の小松根深めて 我れ恋ひわたる人の子ゆゑに
次の歌
奈良山の小松が末のうれむぞは 我が思ふ妹に逢はずやみなむ