橘の本に我を立て下枝取り
ならむや君と問ひし子らはも
- 歌の意味
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橘の木のもとに私を立たせ、下の枝を手に取って、「実がなるでしょうか、あなた」と問いかけたあの娘は、ああ。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2489
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
橘の木の下で、下枝を手にした娘から「実がなるでしょうか」と問いかけられた思い出を、懐かしく振り返る歌である。結句の「はも」によって、その娘を今は遠く思いやる気持ちが込められている。
橘という物に寄せて、二人の恋が実るかどうかを問うた娘のしぐさと言葉を描いている。会話を歌の中に取り込んだ物語性のある一首で、具体的な情景が鮮やかに浮かぶ歌として親しまれている。
作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。
初句「橘の」は、橘の木の、の意である。橘は初夏に白い花を咲かせ、のちに実をつける柑橘の木で、万葉集でも好んで詠まれている。
二句「本に我を立て」は、木のもとに私を立たせて、の意である。主語は結句の「子ら」で、娘が男を木の下に誘ったことを表している。
三句「下枝取り」は、下の方の枝を手に取って、の意である。娘が枝に手をかけて問いかけるしぐさを描いている。
四句「ならむや君と」は、なるでしょうか、あなた、と、の意である。「なる」は橘の実がなることをいい、そこに二人の恋が実ることを重ねている。「や」は疑問の係助詞である。
結句「問ひし子らはも」は、問いかけたあの娘は、ああ、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で回想を表し、「はも」は詠嘆の助詞で、今はそばにいない娘を慕う思いを込めて結んでいる。
たちばな:ミカン科の常緑樹で、初夏に白い花を咲かせ実をつける
しづえ:下の方の枝
こら:女性を親しんで呼ぶ語。「ら」は親愛の意を添える接尾語
- 作者
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柿本人麻呂歌集
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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礒の上に立てるむろの木ねもころに 何しか深め思ひそめけむ
- 次の歌
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天雲に翼打ちつけて飛ぶ鶴の たづたづしかも君しまさねば