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天雲に翼打ちつけて飛ぶ鶴の
たづたづしかも君しまさねば

歌の意味
天の雲に翼を打ちつけて飛ぶ鶴のように、心細くおぼつかないことだ。あなたがいらっしゃらないので。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2490

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 空高く雲に翼を打ちつけるようにして飛ぶ鶴の姿を序とし、その「たづ」の音から「たづたづし」を導いて、頼りとする人のいない心細さを訴えた歌である。「君」と呼びかけていることから、女性の立場で詠まれた歌とみられる。
 前歌までの木や草に寄せる歌から、本歌以降は鳥や獣に寄せる歌が続き、次歌のをし鳥、本巻の第二千四百九十二首のにほ鳥へと連なっていく。巻第四にも「草香江の入江にあさる葦鶴のあなたづたづし友無しにして」と、鶴から「たづたづし」を導く歌があり、同じ発想の表現として知られている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「天雲に」は、天の雲に、の意である。鶴が雲に届くほど高く飛ぶさまを描き出している。
 二句「翼打ちつけて」は、翼を打ちつけるようにして、の意である。この句は七音の句で、羽ばたく力強さを伝えている。
 三句「飛ぶ鶴の」は、飛んでいく鶴のように、の意である。初句からこの句までが序詞で、「鶴(たづ)」の音を繰り返して四句の「たづたづし」を導いている。
 四句「たづたづしかも」は、心細くおぼつかないことだ、の意である。「かも」は詠嘆の助詞で、ここで句切れとなる。結句と倒置の関係にある。
 結句「君しまさねば」は、あなたがいらっしゃらないので、の意である。「し」は強めの助詞、「ます」は「いる」の尊敬語、「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形で、「ば」と合わせて理由を示している。

たづ:鶴の歌語
たづたづし:心細く、おぼつかないさま
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
橘の本に我を立て下枝取り ならむや君と問ひし子らはも
次の歌
妹に恋ひ寐ねぬ朝明にをし鳥の こゆかく渡る妹が使か