古典和歌stream

たらつねの母が養ふ蚕の繭隠り
隠れる妹を見むよしもがも

歌の意味
母が飼う蚕が繭にこもっているように、家にこもっている妹を、見るてだてがあればよいのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2495

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 母が大切に飼う蚕が繭にこもるように、母の手もとで家の奥にこもっている妹に、何とかして逢うすべがほしいと願う歌である。母に守られて外に出られない娘と、近づくことのできない男のもどかしさが表れている。
 蚕の繭に寄せた歌で、養蚕という暮らしの中の物を序に用いている。本巻の巻頭の第二千三百六十八首と同じく「たらちねの母」を詠み、恋の歌における母の存在の大きさを示している。巻第十二にも「たらちねの母が養ふ蚕の繭隠り」を序とする類歌がある。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「たらつねの」は「母」にかかる枕詞で、「たらちねの」と同じである。
 二句「母が養ふ蚕の」は、母が飼っている蚕の、の意である。「養ふ」は、ここでは飼い育てることをいう。
 三句「繭隠り」は、繭の中にこもること、の意である。初句からこの句までが序詞で、「こもり」の音を繰り返して四句の「隠れる」を導いている。
 四句「隠れる妹を」は、家にこもっている妹を、の意である。母のもとに大切に守られて、人目に触れない娘のさまをいう。
 結句「見むよしもがも」は、逢うてだてがあればよいのに、の意である。「よし」は手段、方法の意で、「もがも」は願望の助詞である。

たらつね:「たらちね」と同じく母の意。「たらつねの」の形で「母」にかかる枕詞となる
かふ:動物などを飼い育てる
まよ:繭
よし:手段、方法、てだて
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
大船に真楫しじ貫き漕ぐほとも ここだ恋ふるを年にあらばいかに
次の歌
肥人の額髪結へる染木綿の 染みにし心我れ忘れめや