古典和歌stream

隼人の名に負ふ夜声のいちしろく
我が名は告りつ妻と頼ませ

歌の意味
隼人の、その名に負う夜の声のように、はっきりと私の名は告げた。妻として頼みにしてほしい。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2497

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 自分の名をはっきりと告げたのだから、妻として頼りにしてほしいと、相手の求婚を受け入れたことを伝える歌である。古代には女性が男性に名を明かすことは求婚に応じることを意味しており、その決意を力強く述べた女性の歌である。
 隼人の夜声に寄せた歌で、前歌の肥人に続いて南九州の人々を序に用いている。本巻の第二千四百八十首にも「いちしの花のいちしろく」とあり、同じ「いちしろく」の語で、はっきりと表に出るさまを言う歌が見られる。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「隼人の」は、隼人の、の意である。隼人は九州南部の人々で、宮廷に仕えて宮門の警護にあたった。
 二句「名に負ふ夜声の」は、その名にふさわしい夜の声のように、の意である。隼人は夜の宮門の警護の際に犬の吠えるような声を発したとされ、その鋭く響く声をいう。初句からこの句までが序詞で、三句の「いちしろく」を導いている。
 三句「いちしろく」は、はっきりと、際立って、の意である。隼人の声がよく響くように、という序詞からの続きで、名を告げたことの確かさを強めている。
 四句「我が名は告りつ」は、私の名は告げた、の意である。「告る」は改まって告げることをいい、「つ」は完了の助動詞である。ここで句切れとなる。
 結句「妻と頼ませ」は、妻として頼りにしてほしい、の意である。「頼ませ」は「頼む」に尊敬の助動詞「す」の命令形が付いた形で、相手に求める形で結んでいる。

はやひと:九州南部の人々。宮廷に仕えて宮門の警護などにあたった
よごゑ:夜に発する声
のる:改まって告げる、言い表す
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
肥人の額髪結へる染木綿の 染みにし心我れ忘れめや
次の歌
剣大刀諸刃の利きに足踏みて 死なば死なむよ君によりては