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夕されば床の辺去らぬ黄楊枕
何しか汝れが主待ちかたき

歌の意味
夕方になると寝床のそばを離れない黄楊の枕よ、どうしてお前は、主を待っても迎えることができないでいるのか。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2503

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 夕方になると寝床のそばに置かれる黄楊の枕に向かって、どうしてお前は主を待っても迎えられないのかと問いかけた歌である。枕の主である夫や恋人の訪れがないことを、枕に語りかける形で嘆いた女性の歌とみられる。
 黄楊の枕に寄せた歌で、物に呼びかけることで自らの寂しさを間接に表している。本巻の第二千五百一首と同じく「床の辺去ら」の語を持ち、本巻の第二千五百首の黄楊櫛と同じ黄楊の品を詠み、さらに第二千五百首、第二千四百八十八首と同じく「何しか」と問いかけている。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「夕されば」は、夕方になると、の意である。「さる」は時が移ってくることをいい、已然形に「ば」が付いて、毎夕繰り返されることを表している。
 二句「床の辺去らぬ」は、寝床のそばを離れない、の意である。本巻の第二千五百一首の「床の辺去らず」と同じ言い方で、枕が夜ごと寝床に置かれるさまをいう。
 三句「黄楊枕」は、黄楊の木で作った枕である。三句を体言で据えて、以下の問いかけの相手としている。
 四句「何しか汝れが」は、どうしてお前が、の意である。「汝れ」は枕を指し、物を人に見立てて呼びかけている。「何しか」の「か」は疑問の係助詞で、結句と係り結びをなす。
 結句「主待ちかたき」は、主を待っても迎えることができない、の意である。形容詞「かたし」の連体形「かたき」で四句の「か」を受けて結んでいる。「主」は枕を使う人、すなわち訪れを待たれている夫や恋人をいう。

つげまくら:黄楊の木で作った枕
なれ:二人称の代名詞、お前
ぬし:持ち主、主人
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
まそ鏡手に取り持ちて朝な朝な 見れども君は飽くこともなし
次の歌
解き衣の恋ひ乱れつつ浮き真砂 生きても我れはありわたるかも