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味酒のみもろの山に立つ月の
見が欲し君が馬の音ぞする

歌の意味
三輪山に昇る月のように、見たいと思っていたあなたの馬の足音がする。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2512

詞書は前の歌に続き「問答」
 三輪山に昇る月のように見たいと思っていたあなたの、その馬の足音が聞こえてくると、恋人の訪れを喜ぶ女の歌である。待ちわびた人の気配を耳でとらえた瞬間の高まる心が、月の出の美しさに重ねて詠まれている。
 左注の「右三首」によって一組とされる三首の三首目で、本巻の第二千五百十首の男の歌の赤駒に応じて、馬の音を聞く女の喜びで一連を結んでいる。前歌で道の険しさを案じた女が、本歌では無事に訪れた男を迎える形となり、三首が通う恋の始めから終わりまでを描き出している。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「味酒の」は「みもろ」にかかる枕詞である。うまい酒の意で、神に供える酒を「みわ」ということから三輪山の別名「みもろ」にかかる。
 二句「みもろの山に」は、三輪山に、の意である。「みもろ」は神の降臨する所で、ここでは奈良県桜井市の三輪山を指す。
 三句「立つ月の」は、昇る月のように、の意である。初句からここまでが序詞で、月を見たいと思う心から次の「見が欲し」を導いている。
 四句「見が欲し君が」は、見たいと思うあなたが、の意である。「見が欲し」は見たいの意で、序詞の月と恋人とを重ねている。
 結句「馬の音ぞする」は、馬の足音がする、の意である。係助詞「ぞ」を受けて連体形「する」で結ぶ係り結びで、待つ人の訪れを知った喜びを強めている。

うまさけ:おいしい酒。「うまさけの」の形で「三輪」「みもろ」にかかる枕詞
みもろ:神の降臨する所。ここでは三輪山を指す
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
こもりくの豊泊瀬道は常滑の かしこき道ぞ恋ふらくはゆめ
次の歌
鳴る神の少し響みてさし曇り 雨も降らぬか君を留めむ