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鳴る神の少し響みてさし曇り
雨も降らぬか君を留めむ

歌の意味
雷が少し鳴り響いて空が曇り、雨でも降らないだろうか。そうしたらあなたを引き留めよう。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2513

詞書は前の歌に続き「問答」
 雷が少し鳴って空が曇り、雨でも降ってくれないか、そうすれば帰ろうとするあなたを引き留められるのに、と願う女の歌である。帰ってしまう人を直接引き留めるのではなく、天候にことよせて留める口実を願うところに、控えめでいじらしい恋心が表れている。
 左注に「右二首」とあり、次歌と一組の問答をなす。本歌の願いに対して、次歌の男は雨が降らなくても、あなたが引き留めるなら留まろうと応じている。二首は初句と二句を共有し、雨を口実にしようとする女の歌を、男がそのまま受けて率直な答えを返す構成となっている。
 この一組の問答は、新海誠監督のアニメーション映画『言の葉の庭』(2013)に引用され、広く知られるようになった。
 作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「鳴る神の」は、雷が、の意である。「鳴る神」は鳴りとどろく神の意で、雷を神として畏れた古代の感覚を伝える語である。
 二句「少し響みて」は、少し鳴り響いて、の意である。激しい雷ではなく少しだけ鳴ればよいという言い方に、ささやかな願いがこもっている。
 三句「さし曇り」は、空が曇って、の意である。「さし」は語調を整える接頭語で、雨を呼ぶ空模様を描いている。
 四句「雨も降らぬか」は、雨でも降らないだろうか、降ってほしい、の意である。打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」に助詞「か」が付いて願望を表し、ここで四句切れとなる。
 結句「君を留めむ」は、あなたを引き留めよう、の意である。助動詞「む」は意志を表し、雨を口実にしてでもそばにいてほしいという本心を明かしている。

なるかみ:雷
とよむ:鳴り響く、響きわたる
とどむ:引き留める
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
味酒のみもろの山に立つ月の 見が欲し君が馬の音ぞする
次の歌
鳴る神の少し響みて降らずとも 我は留まらむ妹し留めば