- 歌の意味
-
枕が音を立てるほど夜も寝ずに思っている人には、後にでも逢えるものなのに。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2515
詞書は前の歌に続き「問答」
枕が音を立てるほど夜も眠らずに思い続けている人には、いずれは逢えるものなのに、と詠んだ歌である。眠れない夜の苦しさを訴えながら、これほど思っているのだから逢えないはずはないという思いと、それでも逢えない嘆きとが込められている。
左注に「右二首」とあり、次歌と一組の問答をなす。本歌が枕を響かせて眠れぬ夜を訴えるのに対し、次歌は、枕が人に物を言うだろうか、その枕には苔が生えてしまったと答えている。二首はともに「敷栲の」で始まり、枕という同じ物をめぐって問いと答えが交わされている。
作者は未詳であり、左注によれば柿本人麻呂歌集に出る歌である。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。
初句「敷栲の」は「枕」にかかる枕詞である。「敷栲」は寝床に敷く布のことで、寝具に関わる語にかかる。
二句「枕響みて」は、枕が音を立てて、の意である。眠れずに何度も寝返りを打つさまを、枕が鳴り響くと言い表している。
三句「夜も寝ず」は、夜も眠らずに、の意である。助詞「も」が、夜でさえも、と眠れない苦しさを強めている。
四句「思ふ人には」は、思っている人には、の意である。「は」が取り立ての係助詞で、深く思う者にはという条件を示している。
結句「後も逢ふものを」は、後にでも逢えるものなのに、の意である。「ものを」は逆接と詠嘆を表し、逢えて当然なのに逢えないという嘆きを言いさしの形で残している。
しきたへ:寝床に敷く布。「しきたへの」の形で「枕」「袖」などにかかる枕詞
とよむ:鳴り響く、音を立てる
- 作者
-
柿本人麻呂歌集
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
鳴る神の少し響みて降らずとも 我は留まらむ妹し留めば
- 次の歌
-
敷栲の枕は人に言とへや その枕には苔生しにたり