たらちねの母に障らばいたづらに
汝も我れも事なるべしや
- 歌の意味
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母に妨げられたならば、むなしいままに、あなたも私も事が成就するだろうか、いや成就しはしない。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2517
詞書「正に心緒を述ぶ」
母に妨げられて引き下がってしまったら、あなたも私もむなしいばかりで、恋が成就することなどありはしないと、相手に訴えかけた歌である。娘の恋を見張る母の存在は万葉集の恋の歌にしばしば詠まれ、本歌はその障りを越えて思いを遂げようと促す強い気持ちを率直に述べている。
詞書の「正に心緒を述ぶ」は、物にことよせず心の思いをそのまま述べる歌を集めた部立である。本歌から作者未詳の歌の正述心緒が始まり、柿本人麻呂歌集の歌に続いて、名を伝えない人々の恋の歌が収められていく。人麻呂歌集の正述心緒の最初に置かれた本巻の第二千三百六十八首も「たらちねの母」で始まっており、二つの正述心緒の冒頭がともに母を詠む歌となっている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「たらちねの」は「母」にかかる枕詞である。母を言い起こし、恋の障りとなる存在を最初に示している。
二句「母に障らば」は、母に妨げられたならば、の意である。「障ら」は動詞「障る」の未然形で、助詞「ば」が付いて仮定の条件を表している。
三句「いたづらに」は、むなしく、無駄に、の意である。母の反対に従ってしまった場合の、報われない結末を言い表している。
四句「汝も我れも」は、あなたも私も、の意である。「汝」は親しい相手を呼ぶ語で、二人をともに挙げて、恋が二人の問題であることを示している。
結句「事なるべしや」は、事が成就するだろうか、いや成就しない、の意である。助動詞「べし」に助詞「や」が付いて反語となり、障りに屈してはならないという思いを強めている。
たらちね:母の意。「たらちねの」の形で「母」にかかる枕詞
さはる:妨げられる、差し支える
いまし:あなた。親しい相手を呼ぶ語
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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敷栲の枕は人に言とへや その枕には苔生しにたり
- 次の歌
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我妹子が我れを送ると白栲の 袖漬つまでに泣きし思ほゆ