我妹子が我れを送ると白栲の
袖漬つまでに泣きし思ほゆ
- 歌の意味
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妻が私を見送るといって、白い衣の袖が濡れるほどに泣いていたことが思い出される。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2518
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
自分を見送ってくれた妻が、白い袖がぐっしょり濡れるほどに泣いていた姿が思い出されると詠んだ歌である。別れて旅にある男が、別れ際の妻の涙を思い起こし、離れていてもなお妻を思う深い情が素直に表れている。
心の思いを物にことよせず述べる正述心緒の歌で、白い袖を濡らす涙という具体的な情景が、思い出の鮮やかさを伝えている。本巻の第二千五百二十六首は、妻のもとへ着けば喜んで笑う姿を早く見たいと詠んでおり、別れの涙と再会の笑みとが対をなしている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「我妹子が」は、私のいとしい妻が、の意である。「我妹子」は男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語で、助詞「が」が主語を示している。
二句「我れを送ると」は、私を見送るといって、の意である。助詞「と」が見送る妻の気持ちを示し、旅立ちの場面を描き出している。
三句「白栲の」は「袖」にかかる枕詞である。白い栲の布の意で、袖の白さが涙のしみるさまを印象づけている。
四句「袖漬つまでに」は、袖が濡れるほどに、の意である。「漬つ」は水に濡れる、浸るの意で、「までに」が涙の多さの程度を表している。
結句「泣きし思ほゆ」は、泣いたことが思い出される、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、「思ほゆ」は自然に思われる意を表し、ふと浮かんでくる記憶の切なさを伝えている。
わぎもこ:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
しろたへ:白い栲の布。「しろたへの」の形で「袖」「衣」などにかかる枕詞
ひつ:水に濡れる、浸る
おもほゆ:自然に思われる、思い出される
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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たらちねの母に障らばいたづらに 汝も我れも事なるべしや
- 次の歌
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奥山の真木の板戸を押し開き しゑや出で来ね後は何せむ