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我が背子がその名告らじとたまきはる
命は捨てつ忘れたまふな

歌の意味
あなたの名は決して口にすまいと、私は(たまきはる)命を捨てた。決してお忘れになるな。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2531

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 恋人の名を人に明かすまいと、命を捨てる覚悟を決めたことを告げ、その思いを忘れないでほしいと訴えた、女の恋の歌である。恋人の名を人に告げることは恋を世間に知らせることであり、それを命に代えても守ろうとする激しい心を、物にことよせず直接に述べている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「我が背子が」は、私のいとしいあなたの、の意である。「背子」は女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語である。
 二句「その名告らじと」は、その名は口にすまいと、の意である。「告る」は名などをはっきり口に出して言うことで、打消意志の助動詞「じ」が固い決意を表している。
 三句「たまきはる」は「命」にかかる枕詞である。
 四句「命は捨てつ」は、命は捨てた、の意である。完了の助動詞「つ」で言い切り、ここで句切れとなる。
 結句「忘れたまふな」は、お忘れになるな、の意である。「たまふ」は尊敬の補助動詞、「な」は禁止の終助詞で、相手への切実な願いで歌い収めている。

せこ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
のる:名などをはっきりと口に出して言う
出典
万葉集
前の歌
あらたまの寸戸が竹垣網目ゆも 妹し見えなば我れ恋ひめやも
次の歌
おほならば誰が見むとかもぬばたまの 我が黒髪を靡けて居らむ