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かくばかり恋ひむものぞと思はねば
妹が手本をまかぬ夜もありき

歌の意味
これほどまでに恋い焦がれるものだとは思わなかったので、妻の腕を枕にしないで過ごす夜もあったのだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2547

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 これほど恋に苦しむとは思わなかったので、かつては妻の腕を枕にせずに寝る夜もあったと、過ぎた日を悔やむ歌である。共寝をおろそかにしていた昔と、恋しさに耐えかねる今とを比べ、逢えなくなって初めて知った恋の重さを言い表している。
 詞書の「正に心緒を述ぶ」は、物にことよせず思いをそのまま述べる歌の部立であり、本歌も後悔の念を飾らずに打ち明けている。初句「かくばかり」は万葉集巻第十一の巻頭の第二千三百六十八首の三句にも見え、恋の苦しさの大きさを示す言葉として本巻の恋の歌に繰り返し用いられているのである。次歌も「かくだにも」と同じような言い起こしで始まり、二首が並べられているのである。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「かくばかり」は、これほどまでに、の意で、今味わっている恋の苦しさの程度を指し示している。
 二句「恋ひむものぞと」は、恋い焦がれるものだと、の意である。助動詞「む」は推量、「ぞ」は強く指示する助詞で、「と」で思いの内容をくくっている。
 三句「思はねば」は、思わなかったので、の意である。打消の助動詞「ず」の已然形「ね」に「ば」が付き、順接の確定条件を表している。
 四句「妹が手本を」の「手本」は肘から肩までの腕をいう。「妹」は男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語である。
 結句「まかぬ夜もありき」は、枕にしない夜もあった、の意である。過去の助動詞「き」で、自ら経験した過去として回想し、悔やむ気持ちを込めて歌い収めている。

たもと:手首から肩までの腕の部分
まく:腕などを枕にして寝る
出典
万葉集
前の歌
思はぬに至らば妹が嬉しみと 笑まむ眉引き思ほゆるかも
次の歌
かくだにも我れは恋ひなむ玉梓の 君が使を待ちやかねてむ