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心には千重しくしくに思へども
使を遣らむすべの知らなく

歌の意味
心の中では幾重にも重ね重ね思っているけれども、使いを遣る手立てがわからないことだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2552

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 心の中では幾重にも繰り返し恋しく思っているのに、思いを伝える使いを送る手立てがわからないと嘆く歌である。胸のうちの思いの大きさと、それを相手に届けられないもどかしさとの隔たりを率直に述べている。
 前歌の「すべをなみ」に続き、本歌は結句に「すべの知らなく」を置いており、手立てのない恋の嘆きが連なっている。また本巻の第二千五百四十三首、第二千五百四十八首が使いを待つ側の歌であるのに対し、本歌は使いを送ろうとして送れない側の歌であり、使いをめぐって立場の異なる歌が並んでいるのである。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「心には」は、心の中では、の意である。係助詞「は」で、外に表せない心の内を取り立て、後の「使を遣らむすべの知らなく」と対比させている。
 二句「千重しくしくに」は、幾重にも重ね重ね、の意である。「千重」は数多く重なること、「しくしくに」は絶え間なく重なって、の意で、思いが積み重なる様子を表している。
 三句「思へども」は、思っているけれども、の意である。接続助詞「ども」が逆接を表し、下の句の嘆きへとつないでいる。
 四句「使を遣らむ」は、使いを遣わそう、の意である。助動詞「む」は意志を表し、相手に思いを伝えようとする気持ちを示している。
 結句「すべの知らなく」は、手立てがわからないことだ、の意である。「なく」は打消の助動詞「ず」のク語法で、詠嘆を込めて言いさした形で歌い収めている。

ちへ:数多く重なること、幾重
すべ:物事を行う手段、方法
出典
万葉集
前の歌
思ひにしあまりにしかばすべをなみ 出でてぞ行きしその門を見に
次の歌
夢のみに見てすらここだ恋ふる我は うつつに見てばましていかにあらむ