たらちねの母に申さば君も我れも
逢ふとはなしに年ぞ経ぬべき
- 歌の意味
-
母に打ち明けたならば、あなたも私も逢うこともないまま、年月が過ぎてしまうにちがいない。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2557
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
二人の仲を母に打ち明けたら、きっと反対されて、あなたも私も逢えないまま年が過ぎてしまうだろうと詠んだ歌である。娘の恋を見張る母の存在を前に、打ち明けることもできず思い悩む女性の心が表れている。
万葉集の恋の歌では、母は娘の恋を監視し妨げる存在としてしばしば詠まれる。「たらちねの母」は万葉集巻第十一の巻頭の第二千三百六十八首にも見える言葉であり、巻頭の歌が母の手を離れて恋を知った嘆きを詠むのに対し、本歌は母の目を恐れて恋を隠す嘆きを詠んでいるのである。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「たらちねの」は「母」にかかる枕詞である。
二句「母に申さば」は、母に申し上げたならば、の意である。「申さ」は「言ふ」の謙譲語「申す」の未然形で、「ば」が付いて仮定条件を表している。
三句「君も我れも」は、あなたも私も、の意である。六音の字余りで、係助詞「も」を重ねて二人がともに逢えなくなることを強調している。
四句「逢ふとはなしに」は、逢うということもなく、の意である。「なしに」は、〜することなしに、の意で、逢えないまま過ぎる時を表している。
結句「年ぞ経ぬべき」は、年が過ぎてしまうにちがいない、の意である。係助詞「ぞ」を受けて結びは推量の助動詞「べし」の連体形「べき」となる係り結びである。
たらちね:母の意。「たらちねの」の形で「母」にかかる枕詞となる
まをす:「言ふ」の謙譲語、申し上げる
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
玉垂の小簾の垂簾を行きかちに 寐は寝さずとも君は通はせ
- 次の歌
-
愛しと思へりけらしな忘れと 結びし紐の解くらく思へば