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ぬばたまの妹が黒髪今夜もか
我がなき床に靡けて寝らむ

歌の意味
いとしい妻は、黒髪を今夜もまた、私のいない床になびかせて寝ているのだろうか。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2564

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 離れて暮らす妻が、今夜も自分のいない寝床に黒髪をなびかせて独り寝をしているのだろうかと思いやる歌である。妻の黒髪という具体的な姿を思い描くことで、共寝できない夜の寂しさと妻への慕わしさを官能的に表している。
 「ぬばたまの」から「黒髪」へと続く言葉が夜の闇を思わせ、離れた妻の寝姿を幻のように浮かび上がらせている。自分の独り寝ではなく妻の独り寝を想像する点に、相手を思いやる心がこもっている恋の歌である。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「ぬばたまの」は「黒」「夜」などにかかる枕詞で、ここでは「黒髪」を導いている。ぬばたまは檜扇の実で、黒いことからこの用法が生まれたとされる。
 二句「妹が黒髪」は、妻の黒髪、の意である。「妹」は男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語である。
 三句「今夜もか」は、今夜もまた、の意である。係助詞「か」が疑問を表している。
 四句「我がなき床に」は、私のいない寝床に、の意で、共寝のできない独り寝の床を示している。
 結句「靡けて寝らむ」は、なびかせて寝ているのだろうか、の意である。三句の係助詞「か」を受けて、現在推量の助動詞「らむ」の連体形で結ぶ係り結びである。

ぬばたま:檜扇の実。黒いことから「ぬばたまの」の形で「黒」「夜」などにかかる枕詞となる
なびく:横に伏せるように長く垂らす
出典
万葉集
前の歌
人目守る君がまにまに我れさへに 早く起きつつ裳の裾濡れぬ
次の歌
花ぐはし葦垣越しにただ一目 相見し子ゆゑ千たび嘆きつ