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色に出でて恋ひば人見て知りぬべし
心のうちの隠り妻はも

歌の意味
顔色に出して恋い慕ったならば、人が見て知ってしまうにちがいない。心の中に秘めている隠し妻よ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2566

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 恋しさを顔色に出せば人に知られてしまうので、心の中にじっと秘めておくしかない隠し妻よ、と詠んだ歌である。人に知られてはならない恋を抱え、思いを表に出せない苦しさと、それでも妻を思う気持ちが表れている。
 上の句で人目を恐れる理由を述べ、下の句で心に秘めた妻への呼びかけで結ぶ構成である。前の数首に見えた噂や人目への恐れが、本歌では思いを表情にさえ出せないという形で詠まれており、秘めた恋の歌として前の歌々と通じ合っているのである。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「色に出でて」は、顔色に表して、の意である。「色」は表情や様子をいい、六音の字余りである。
 二句「恋ひば人見て」は、恋い慕ったならば人が見て、の意である。「恋ひば」は未然形に「ば」が付いた仮定条件である。
 三句「知りぬべし」は、知ってしまうにちがいない、の意である。完了の助動詞「ぬ」と推量の助動詞「べし」が重なって確信を表し、ここで切れる三句切れである。
 四句「心のうちの」は、心の中の、の意で、人には見せずに秘めていることを表している。
 結句「隠り妻はも」は、隠し妻よ、の意である。「隠り妻」は人目を忍んで逢う妻をいい、終助詞「はも」が深い詠嘆を表して、体言に添えて歌い収めている。

こもりづま:人目を忍んで逢う妻、人に隠している妻
いろ:顔色や表情、様子
出典
万葉集
前の歌
花ぐはし葦垣越しにただ一目 相見し子ゆゑ千たび嘆きつ
次の歌
相見ては恋慰むと人は言へど 見て後にぞも恋まさりける