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思ふらむその人なれやぬばたまの
夜ごとに君が夢にし見ゆる

歌の意味
私を思っているというその人だからなのだろうか。夜ごとにあなたが夢に見える。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2569

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 夜ごとにあなたが夢に現れるのは、あなたが私を思っていてくれるからだろうかと、恋人の心を確かめるように詠んだ歌である。相手が自分を思うとその姿が夢に現れるという古代の考え方に立ち、夢に見えることを相手の思いの証として喜びつつ、なお問いかける形で心の揺れをにじませている。
 心の思いを直接述べる「正に心緒を述ぶ」の一首で、女性の立場で詠まれた歌と見られる。夢を介して相手の心を知るという趣向は、万葉集巻第十一の恋の歌にしばしば見えるものである。
 なお原文には「或本歌曰」として、下の句を「夜昼と言はずあが恋ひわたる」とする異伝が注記されている。異伝では相手が夢に見えることではなく、夜も昼も恋い続ける自分の思いを述べる形になる。ここでは本文の「夜ごとに君が夢にし見ゆる」を採った。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「思ふらむ」は、私を思っているであろう、の意である。現在推量の助動詞「らむ」で、目の前にいない相手の心を推し量っている。
 二句「その人なれや」は、その人だからだろうか、の意である。「なれや」は断定の助動詞「なり」の已然形に係助詞「や」が付いた形で、疑問の気持ちを表している。
 三句「ぬばたまの」は「夜」にかかる枕詞である。ぬばたまの黒さが夜の闇を印象づけている。
 四句「夜ごとに君が」は、毎夜毎夜あなたが、の意である。一夜だけでないことが、相手の思いが続いていることを示している。
 結句「夢にし見ゆる」は、夢に見える、の意である。「し」は強めの助詞で、二句の係助詞「や」を受けて連体形「見ゆる」で結んでいる。

ぬばたま:ヒオウギの実。黒いことから「夜」「黒」などにかかる枕詞となる
いめ:夢の古い言い方
出典
万葉集
前の歌
おほろかに我れし思はばかくばかり 難き御門を罷り出めやも
次の歌
かくのみし恋ひば死ぬべみたらちねの 母にも告げずやまず通はせ