古典和歌stream

人間守り葦垣越しに我妹子を
相見しからに言ぞさだ多き

歌の意味
人のいない隙をうかがって、葦垣越しにいとしい人に逢っただけなのに、噂がしきりに立つことだ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2576

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 人目のない隙を見はからって、葦の垣根越しに恋人と顔を合わせただけなのに、もう噂がうるさく立っていると嘆いた男の歌である。わずかな逢瀬でもたちまち人の口にのぼる、狭い世間での恋の不自由さが表れている。
 心の思いを直接述べる「正に心緒を述ぶ」の一首である。本巻の第二千五百六十五首にも「葦垣越しにただ一目相見し子ゆゑ」とあり、葦垣越しに相手を見るという同じ趣向を、本歌はたちまち立つ噂の面から詠んでいる。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「人間守り」は、人のいない間をうかがって、の意である。人目を避けて逢おうとする用心深さを示している。
 二句「葦垣越しに」は、葦で編んだ垣根越しに、の意である。垣根を隔ててわずかに顔を合わせたことをいい、本巻の第二千五百六十五首と同じ語を用いている。
 三句「我妹子を」は、いとしい人を、の意である。男性が恋人を親しんで呼ぶ語である。
 四句「相見しからに」は、逢っただけなのに、の意である。「からに」は、ただそれだけのことで、という意を表している。
 結句「言ぞさだ多き」は、噂がしきりである、の意と解されるが、「さだ」の語義には諸説がある。係助詞「ぞ」を受けて連体形「多き」で結ぶ係り結びとなっている。

ひとま:人の見ていない間
わぎもこ:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
さだ:語義が明らかでなく諸説がある
出典
万葉集
前の歌
めづらしき君を見むとこそ左手の 弓取る方の眉根掻きつれ
次の歌
今だにも目な乏しめそ相見ずて 恋ひむ年月久しけまくに