ますらをと思へる我れをかくばかり
恋せしむるは悪しくはありけり
- 歌の意味
-
立派な男だと思っていた私を、これほどまでに恋させるのは、ひどいことであったよ。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2584
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
自分では立派な男だと思っていたのに、これほどまでに恋に苦しませるとは、ひどいことだったと嘆いた男の歌である。ますらおとしての自負が恋の前にもろくも崩れた驚きと、恋させた相手へのうらみとを、率直に述べている。
心の思いを直接述べる「正に心緒を述ぶ」の一首である。本巻の第二千五百七十一首では、女が、ますらおは友とのにぎわいに慰められるだろうと詠んでおり、本歌はその男の側の苦しみを示すものとして対照をなしている。また男でありながら恋い続ける自分を詠んだ第二千五百八十首とも通じる趣向である。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「ますらをと」は、立派な男子だと、の意である。勇ましく雄々しい男としての自負を示している。
二句「思へる我れを」は、思っていた私を、の意である。存続の助動詞「り」の連体形「る」で、ずっとそう思ってきたことを表している。
三句「かくばかり」は、これほどまでに、の意で、恋の苦しさの大きさを指している。
四句「恋せしむるは」は、恋をさせるのは、の意である。使役の助動詞「しむ」により、相手が自分を恋に陥らせたことを表している。
結句「悪しくはありけり」は、ひどいことであったよ、の意である。八音の字余りで、助動詞「けり」が気づきの詠嘆を表している。
ますらを:立派な男子、勇ましい男
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
相見ては幾久さにもあらなくに 年月のごと思ほゆるかも
- 次の歌
-
かくしつつ我が待つ験あらぬかも 世の人皆の常にあらなくに