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大原の古りにし里に妹を置きて
我れ寐ねかねつ夢に見えこそ

歌の意味
大原の古びた里に妻を置いてきて、私は寝つくことができない。せめて夢に見えてほしい。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2587

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 大原の古びた里に妻を残して離れている男が、恋しさに眠れず、せめて夢の中で逢いたいと願った歌である。離れて暮らす妻への思いを、眠れない夜の嘆きと夢への願いとして率直に述べている。
 大原は飛鳥の地名で、現在の奈良県明日香村小原にあたるとされる。「大原の古りにし里」という言い方は、巻第二の第百三首の天武天皇の歌「我が里に大雪降れり大原の古りにし里に降らまくは後」にも見え、都が移って古びた里という含みをもつ。前歌までの人目を憚る恋から、本歌以降しばらく、眠れない夜と夢を詠む恋の歌が続いている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「大原の」は飛鳥の地名で、藤原氏ゆかりの里として知られる。古びた里の前置きとして地名を示している。
 二句「古りにし里に」は、古くなってしまった里の意である。「にし」は完了の助動詞「ぬ」の連用形と過去の助動詞「き」の連体形で、かつての賑わいが過ぎ去った里を表している。
 三句「妹を置きて」は、いとしい妻をその里に残しての意である。六音の字余りの句である。
 四句「我れ寐ねかねつ」は、私は寝つくことができない、の意である。「かね」は、できないの意を添える補助動詞「かぬ」で、「つ」は完了の助動詞である。ここで意味が切れる四句切れの歌である。
 結句「夢に見えこそ」は、夢に見えてほしい、の意である。「こそ」は他に対する願望を表す助詞で、相手が夢に現れてくれることを願って一首を結んでいる。

いも:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
いぬ:眠る、寝つく
いめ:夢の古い形
出典
万葉集
前の歌
人言を繁みと君に玉梓の 使も遣らず忘ると思ふな
次の歌
夕されば君来まさむと待ちし夜の なごりぞ今も寐ねかてにする