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相思はず君はあるらしぬばたまの
夢にも見えずうけひて寝れど

歌の意味
あなたは私を思ってはいないらしい。夢にさえ見えない、うけいをして寝たのに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2589

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 恋人が夢に現れるよう神に祈って寝たのに夢にも見えないので、相手は自分を思ってはいないのだろうと嘆いた女の歌である。相手が自分を思えばその姿が夢に見えるという古代の考え方を踏まえ、夢に見えないことを相手の心変わりの証と受け取る心の痛みを詠んでいる。
 前歌に続いて夜の寝床での嘆きを詠み、前々歌の「夢に見えこそ」という願いに対して、本歌は願っても夢に見えないという結果を述べる形となっている。眠りと夢をめぐる恋の歌が、この辺りで一続きに配列されている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「相思はず」は、互いに思い合うことなく、の意である。自分は思っているのに相手は思っていないという片思いの嘆きを、冒頭から示している。
 二句「君はあるらし」は、あなたはいるらしい、の意である。「らし」は根拠に基づく推定の助動詞で、夢に見えないことを根拠にしている。ここで意味が切れる二句切れの歌である。
 三句「ぬばたまの」は「夢」にかかる枕詞である。ぬばたまは檜扇の実で黒いことから、黒、夜、夢などにかかる。
 四句「夢にも見えず」は、夢にさえ見えない、の意である。初句、二句で述べた推定の根拠を示す句である。
 結句「うけひて寝れど」は、うけいをして寝たけれども、の意である。うけいは神意を問う占いの一種で、ここでは相手が夢に現れるよう祈って寝たことをいう。四句と結句は倒置となっており、祈ったのに見えないという落胆を強めている。

うけふ:神に祈って事の成否を占う、誓いを立てて祈る
ぬばたま:檜扇の実。黒いことから黒、夜、夢などにかかる枕詞となる
いめ:夢の古い形
出典
万葉集
前の歌
夕されば君来まさむと待ちし夜の なごりぞ今も寐ねかてにする
次の歌
岩根踏み夜道は行かじと思へれど 妹によりては忍びかねつも