岩根踏み夜道は行かじと思へれど
妹によりては忍びかねつも
- 歌の意味
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岩を踏みしめて行く夜道は行くまいと思っていたが、妻のことになると、こらえきれなかったよ。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2590
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
岩の多い険しい夜道は行くまいと心に決めていたのに、いとしい妻のこととなると思いを抑えきれず、出かけてしまったと詠んだ男の歌である。決意が恋の前にくずれてしまうさまを、自嘲を含んだ詠嘆で述べている。
前歌までの夜の寝床で眠れずに嘆く歌から転じて、本歌は夜道を越えて妻のもとへ向かう男の行動を詠む。夜の恋という主題を、待つ側から通う側へ移して扱っている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「岩根踏み」は、岩を踏んで、の意である。「岩根」は大地に根を張ったような大きな岩で、険しい道のりを示している。
二句「夜道は行かじと」は、夜道は行くまいと、の意である。「じ」は打消意志の助動詞で、行かないと決めていた心を表している。
三句「思へれど」は、思っていたけれども、の意である。「思へれ」は「思ふ」に存続の助動詞「り」の已然形が付いた形で、接続助詞「ど」によって逆接で下の句へ続けている。
四句「妹によりては」は、妻のことにかけては、の意である。係助詞「は」によって、ほかのことはともかく妻のこととなると、と取り立てている。
結句「忍びかねつも」は、こらえきれなかったよ、の意である。「かね」は、できないの意の補助動詞「かぬ」で、「つ」は完了の助動詞、「も」は詠嘆の助詞である。
いはね:大地に根を張ったようにどっしりした岩
しのぶ:思いをこらえる、我慢する
いも:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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相思はず君はあるらしぬばたまの 夢にも見えずうけひて寝れど
- 次の歌
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人言の繁き間守ると逢はずあらば つひにや子らが面忘れなむ