行かぬ我れを来むとか夜も門閉さず
あはれ我妹子待ちつつあるらむ
- 歌の意味
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行かない私を、来るだろうと思ってか、夜も門を閉ざさずに、ああ、いとしい妻は待ち続けているのだろう。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2594
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
訪ねて行けない自分を来るものと思って、夜も門を閉めずに待っているであろう妻の姿を思いやった男の歌である。待つ妻のいじらしさと、行けない自分の心苦しさとを「あはれ」という感動の言葉に込めている。
本巻の第二千五百八十八首が来ない男を待って眠れない女の歌であったのに対し、本歌は待たせている男の側から待つ妻を思いやる歌であり、待つ側と待たせる側が対をなしている。前歌までの眠れない夜の歌と同じく、夜の恋の切なさを詠む一首である。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「行かぬ我れを」は、行かない私を、の意である。六音の字余りの句で、訪ねて行けない自分のことを最初に置いている。
二句「来むとか夜も」は、来るだろうと思ってか、夜も、の意である。係助詞「か」は疑問を表し、結句の連体形「らむ」で結ぶ係り結びとなっている。
三句「門閉さず」は、門を閉ざさないで、の意である。夜も門を開けたまま待つ妻の姿を具体的に描いている。
四句「あはれ我妹子」は、ああ、いとしい妻は、の意である。「あはれ」は深く心を動かされたときに発する感動詞で、妻へのいとおしさと申し訳なさがこもっている。
結句「待ちつつあるらむ」は、待ち続けているのだろう、の意である。「つつ」は継続を表し、「らむ」は目の前にない現在の事柄を推量する助動詞で、二句の「か」を受けた結びである。
わぎもこ:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
かど:家の門、出入り口
さす:戸や門を閉ざす
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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敷栲の枕響みて寐ねらえず 物思ふ今夜早も明けぬかも
- 次の歌
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夢にだに何かも見えぬ見ゆれども 我れかも惑ふ恋の繁きに