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慰もる心はなしにかくのみし
恋ひやわたらむ月に日に異に

歌の意味
心の慰められることもなく、このようにばかり恋い続けてゆくのだろうか、月ごと日ごとにますますつのって。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2596

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 心の晴れることのないまま、月を重ね日を重ねるごとにいっそう激しく恋い続けてゆくのだろうかと、果てのない恋の苦しさを嘆いた歌である。恋がおさまるどころか日ごとにつのってゆく先行きを思い、途方に暮れる心を詠んでいる。
 なお原文には「或本歌曰」として「沖つ波しきてのみやも恋ひわたりなむ」という異伝が注記されている。これは三句以下を、沖の波がしきりに寄せるように、ひたすら恋い続けるのだろうか、と言い換えたものである。ここでは本文の「かくのみし恋ひやわたらむ月に日に異に」を採った。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「慰もる」は、心が慰められる、の意である。「慰む」の古い活用形と考えられ、物思いが晴れることをいう。
 二句「心はなしに」は、心はないままに、の意である。慰めとなるものが何もない状態を表している。
 三句「かくのみし」は、このようにばかり、の意である。副助詞「のみ」に強意の「し」が添えられ、今の苦しい恋の状態を強調している。
 四句「恋ひやわたらむ」は、恋い続けてゆくのだろうか、の意である。係助詞「や」は疑問を表し、連体形「む」で結ぶ係り結びとなっている。「わたる」は時を経て続けることをいう。ここで意味が切れる四句切れの歌である。
 結句「月に日に異に」は、月ごと日ごとにますます、の意である。「異に」は、いっそう、ますますの意で、四句との倒置によって恋がつのり続けるさまを強く印象づけている。

なぐさもる:心が慰められる、気が晴れる
わたる:ある状態のまま時を過ごす、続ける
出典
万葉集
前の歌
夢にだに何かも見えぬ見ゆれども 我れかも惑ふ恋の繁きに
次の歌
いかにして忘れむものぞ我妹子に 恋はまされど忘らえなくに