古典和歌stream

思ひ出でて音には泣くともいちしろく
人の知るべく嘆かすなゆめ

歌の意味
私を思い出して声をあげて泣くことはあっても、人にはっきりと知られるほどにお嘆きになってはいけない、決して。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2604

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 思い出して声をあげて泣くことはあっても、人に二人の仲が知られるほどにはっきりと嘆いてはいけないと、恋人を戒めた女の歌である。相手を思いやりながらも、恋が世間に知られることを恐れる心を、強い禁止の言葉で表している。
 前歌までの二首が自らの心を述べる女の歌であったのに対し、本歌は相手に向かって語りかける形をとる。人目や人の噂を恐れる気持ちは、本巻の第二千五百九十一首などにも見え、秘めた恋を詠む万葉集巻第十一の恋の歌に通じるものである。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「思ひ出でて」は、思い出して、の意である。字余りの句で、恋人が自分を思い出す場面を想定している。
 二句「音には泣くとも」は、声をあげて泣くとしても、の意である。「音に泣く」は声を出して泣くことで、「とも」は逆接の仮定を表している。
 三句「いちしろく」は、はっきりと、の意である。目立って人目につくさまを表している。
 四句「人の知るべく」は、人が知るほどに、の意である。「べく」は助動詞「べし」の連用形で、そうなるほどの程度を示している。
 結句「嘆かすなゆめ」は、お嘆きになるな、決して、の意である。「嘆かす」は「嘆く」に尊敬の助動詞「す」が付いた形、「な」は禁止の終助詞で、副詞「ゆめ」を後に置く倒置によって戒めを強めている。

ね:声、泣き声
なげかす:「嘆く」の尊敬語。お嘆きになる
出典
万葉集
前の歌
心をし君に奉ると思へれば よしこのころは恋ひつつをあらむ
次の歌
玉桙の道行きぶりに思はぬに 妹を相見て恋ふるころかも