- 歌の意味
-
妻の袖と別れた日から、白栲の衣の片袖を敷いて、恋い続けながら寝ている。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2608
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
恋人の袖と別れたその日から、自分の衣の片袖だけを敷いて、恋しさを抱えたまま独り寝を続けていると詠んだ恋の歌である。共寝の日々と独り寝の今とを対比させ、別れて以来の寂しさを率直に述べている。
前歌の第二千六百七首が「衣手離れて」と共寝の袖との別れを詠んだのを受け、本歌も「妹が袖別れし日より」と袖の別れから歌い起こしており、袖と衣をめぐる歌が続いている。また本歌の三句「白栲の」は、次歌の第二千六百九首の初句にも用いられている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「妹が袖」は、恋人の袖の意である。共寝の際に交わした袖をいい、袖によって恋人その人を表している。
二句「別れし日より」は、別れた日から、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形、「より」は起点を示す格助詞で、別れて以来の時の長さを思わせる。
三句「白栲の」は、衣、袖などにかかる枕詞で、ここでは四句の「衣」にかかる。白い栲の布の清らかさが、独り寝の寂しさを際立たせている。
四句「衣片敷き」は、自分の衣の片袖だけを敷いて寝ることをいう。共寝では互いの袖を敷き交わすのに対し、片袖を敷くのは独り寝を表す表現である。
結句「恋ひつつぞ寝る」は、恋い続けながら寝ている、の意である。「つつ」は反復と継続を表す接続助詞で、係助詞「ぞ」を受けて「寝る」と連体形で結ぶ係り結びとなっている。
いも:男性が恋人や妻を親しんで呼ぶ語
しろたへ:楮などの繊維で織った白い布。「しろたへの」の形で衣、袖などにかかる枕詞となる
かたしく:自分の衣の片袖だけを敷いて独り寝をする
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
敷栲の衣手離れて我を待つと あるらむ子らは面影に見ゆ
- 次の歌
-
白栲の袖はまゆひぬ我妹子が 家のあたりをやまず振りしに