白栲の袖はまゆひぬ我妹子が
家のあたりをやまず振りしに
- 歌の意味
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白栲の袖はすり切れてほつれてしまった。いとしい妻の家のあたりに向かって、絶えず振っていたので。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2609
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
恋人の家のあたりに向かって絶えず袖を振り続けたので、白い袖がほつれてしまったと詠んだ恋の歌である。袖を振るのは、別れを惜しみ、離れた人に思いを届けようとするしぐさであり、袖がほつれるほどだという誇張に、恋しさの深さが込められている。
初句「白栲の」は、前歌の第二千六百八首の三句と同じく、袖や衣を詠む歌が続く中に置かれている。前歌が片袖を敷く独り寝を詠んだのに対し、本歌は袖を振り続けるしぐさを詠み、袖をめぐる恋のありさまを別の角度から描いている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「白栲の」は、袖、衣などにかかる枕詞で、ここでは「袖」にかかる。前歌の三句にも用いられた語である。
二句「袖はまゆひぬ」は、袖はほつれてしまった、の意である。「まゆひ」は布の織り目が片寄ってほつれる意の動詞で、「ぬ」は完了の助動詞である。ここで句切れとなる二句切れの歌である。
三句「我妹子が」は、いとしい妻の、の意である。「我妹子」は恋人や妻を親しんで呼ぶ語である。
四句「家のあたりを」は、家のあたりに向かって、の意である。恋人の姿は見えず、家のあたりを目当てに袖を振るところに、離れた身の切なさがある。
結句「やまず振りしに」は、絶えず振っていたので、の意である。「し」は過去の助動詞「き」の連体形、「に」は理由を表す接続助詞で、袖がほつれた理由を後に置く倒置の形となっている。
まゆふ:布の織り目が片寄って薄くなり、ほつれる
わぎもこ:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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妹が袖別れし日より白栲の 衣片敷き恋ひつつぞ寝る
- 次の歌
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ぬばたまの我が黒髪を引きぬらし 乱れてさらに恋ひわたるかも