古典和歌stream

白栲の袖触れてし夜我が背子に
我が恋ふらくはやむ時もなし

歌の意味
白栲の袖を触れ合わせたあの夜から、私の夫を恋しく思う気持ちは、やむ時もない。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2612

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 恋人と袖を触れ合わせたあの夜から、相手を恋い慕う思いがやむ時もないと詠んだ恋の歌である。「我が背子」と呼びかけることから女性の立場の歌とみられ、ただ一夜の逢瀬がその後の絶え間ない恋の始まりとなったことを率直に述べている。
 初句「白栲の」と「袖」の組み合わせは、本巻の第二千六百九首の初句二句と同じであり、前歌の第二千六百十一首の手枕と並んで、共寝の記憶を身につけたものに託す歌が続いている。第二千六百九首が男の立場から袖を振り続ける恋を詠んだのに対し、本歌は女の立場から袖を触れ合った夜以来の恋を詠んでいる。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「白栲の」は、袖、衣などにかかる枕詞で、ここでは二句の「袖」にかかる。
 二句「袖触れてし夜」は、袖を触れ合わせたあの夜、の意である。「て」は完了の助動詞「つ」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、過ぎ去った逢瀬の夜をはっきりと思い起こしている。共寝をしたことを袖の触れ合いで婉曲に表した句である。
 三句「我が背子に」は、私の夫に、の意である。「背子」は女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語である。
 四句「我が恋ふらくは」は、私が恋しく思うことは、の意である。「恋ふらく」は動詞「恋ふ」のク語法で、恋しく思うこと、の意となり、係助詞「は」で取り立てている。
 結句「やむ時もなし」は、やむ時もない、の意である。袖を触れたあの夜から今まで、恋の思いが一時も途切れないことを言い切っている。

せこ:女性が夫や恋人を親しんで呼ぶ語
しろたへ:楮などの繊維で織った白い布。「しろたへの」の形で衣、袖などにかかる枕詞となる
出典
万葉集
前の歌
今さらに君が手枕まき寝めや 我が紐の緒の解けつつもとな
次の歌
夕占にも占にも告れる今夜だに 来まさぬ君をいつとか待たむ