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奥山の真木の板戸を音早み
妹があたりの霜の上に寝ぬ

歌の意味
奥山の真木で作った板戸は開ける音が高いので、妻の家のあたりの霜の上に寝てしまった。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2616

詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
 恋人の家を訪ねたものの、真木の板戸は開ける音が高く、家の人に気づかれるのをはばかって戸を開けられず、家のあたりの霜の上で寝てしまったと詠んだ恋の歌である。冬の夜の寒さに耐えて恋人のそばを離れられない男の姿が、いくらかのおかしみを交えて描かれている。
 次歌の第二千六百十七首は、女が「山桜戸を開け置きて」恋人を待つ歌であり、本歌と戸を介して対をなしている。本歌は訪ねる男が戸の音をはばかって入れない嘆き、次歌は戸を開けて待つ女の嘆きを詠み、待たれる側と待つ側とが向き合う配列となっている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「奥山の」は、奥深い山の、の意で、二句の「真木」を修飾する。良い木材が奥山から切り出されることを示している。
 二句「真木の板戸を」は、真木で作った板戸が、の意である。「真木」は杉や檜などの良質の木で、重く頑丈な戸を思わせる。
 三句「音早み」は、音が高いので、の意である。形容詞「早し」の語幹に接尾語「み」が付いたミ語法で、二句の「を」と呼応して「板戸が音が高いので」と理由を表す。戸を開ける音で家の人に知られることを恐れた心がうかがえる。
 四句「妹があたりの」は、恋人の家のあたりの、の意である。家の中に入れず、そのすぐ近くにとどまったことをいう。
 結句「霜の上に寝ぬ」は、霜の上に寝てしまった、の意である。「ぬ」は完了の助動詞で、冷たい霜の上で夜を明かした恋のつらさを言い切っている。

まき:杉や檜などの良質の木
いたど:板で作った戸
ぬ:寝る
出典
万葉集
前の歌
敷栲の枕をまきて妹と我れと 寝る夜はなくて年ぞ経にける
次の歌
あしひきの山桜戸を開け置きて 我が待つ君を誰れか留むる