あしひきの山桜戸を開け置きて
我が待つ君を誰れか留むる
- 歌の意味
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山桜の木の戸を開けておいて私が待っているあなたを、誰が引き留めているのだろうか。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2617
詞書は前の歌に続き「正に心緒を述ぶ」
恋人が来たらすぐ入れるように山桜の戸を開けておいて待っているのに、いったい誰があの人を引き留めているのかと嘆いた恋の歌である。男の訪れを待つ女性の立場の歌とみられ、来ない恋人へのもどかしさに、ほかの女性に引き留められているのではという疑いもにじんでいる。
前歌の第二千六百十六首が戸の音をはばかって入れなかった男の歌であったのに対し、本歌は戸を開けて待つ女の歌であり、戸を介して対をなしている。また次歌の第二千六百十八首は、恋人に逢おうと急いで来たものの夜が更けてしまったと詠む男の歌であり、待つ女の問いに応じるかのような配列となっている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「あしひきの」は、「山」にかかる枕詞で、ここでは二句の「山桜戸」の「山」にかかる。
二句「山桜戸を」は、山桜の木で作った戸を、の意である。山桜の材で作った戸をいい、桜の名が戸に華やかさを添えている。
三句「開け置きて」は、開けておいて、の意である。恋人がいつ来てもすぐ入れるように備えておく、待つ心の表れである。
四句「我が待つ君を」は、私が待っているあなたを、の意である。待つ側の思いを率直に示した句である。
結句「誰れか留むる」は、誰が引き留めているのか、の意である。係助詞「か」を受けて動詞「留む」の連体形「留むる」で結ぶ係り結びとなっており、来ない恋人を引き留める者への恨みと疑いを問いの形で表している。
やまさくらど:山桜の木で作った戸
とどむ:引き留める
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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奥山の真木の板戸を音早み 妹があたりの霜の上に寝ぬ
- 次の歌
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月夜よみ妹に逢はむと直道から 我れは来つれど夜ぞ更けにける