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摺り衣着りと夢に見つうつつには
いづれの人の言か繁けむ

歌の意味
摺り衣を着ていると夢に見た。現実には、どの人との噂がしきりに立つのだろうか。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2621

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 摺り衣を着ている夢を見たことから、現実にはいったい誰との噂が立つのだろうかと思いめぐらした恋の歌である。夢を現実の前触れと受け止め、まだ定かでない恋の行方を、期待と不安の入りまじった思いで占うような心が詠まれている。
 詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」であり、本歌は摺り衣に寄せて恋の噂を思う歌である。摺り衣は草木の汁で模様を摺りつけた衣で、人目につくことから、それを着る夢は人の噂が立つ前兆とされたとする説がある。夢と現実とを対比させて詠む点に、夢を重んじた万葉びとの心のありようがうかがえる。前歌の第二千六百二十首の解き衣に続き、衣に寄せる歌の一首である。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「摺り衣」は、草木の汁などで模様を摺りつけて染めた衣の意である。本歌で思いを寄せる物にあたる。
 二句「着りと夢に見つ」は、着ていると夢に見た、の意である。「着り」は「着る」に存続の助動詞「り」が付いた形、「つ」は完了の助動詞で、ここで句切れとなる二句切れの歌である。
 三句「うつつには」は、現実には、の意である。二句の「夢」と対比させ、夢で見たことが現実ではどうなるのかと問いを起こしている。
 四句「いづれの人の」は、どの人の、の意である。噂の相手が誰になるのかまだ分からないことをいい、恋の行方の定まらなさを表している。
 結句「言か繁けむ」は、噂がしきりに立つのだろうか、の意である。「言」は人の噂をいう。係助詞「か」を受けて推量の助動詞「む」が連体形で結ぶ係り結びとなっている。

すりごろも:草木の汁などで模様を摺りつけて染めた衣
いめ:夢
うつつ:現実
こと:言葉。ここでは人の噂
出典
万葉集
前の歌
解き衣の思ひ乱れて恋ふれども なぞ汝がゆゑと問ふ人もなき
次の歌
志賀の海人の塩焼き衣なれぬれど 恋といふものは忘れかねつも