紅の八しほの衣朝な朝な
馴れはすれどもいやめづらしも
- 歌の意味
-
紅で幾度も染めた衣が朝ごとに着慣れてなじむように、朝ごとに馴れ親しんではいるけれども、いよいよ心ひかれることだ。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2623
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
紅で幾度も染め重ねた美しい衣が、毎朝着るうちに肌になじむように、朝ごとに相手と馴れ親しんではいるけれども、いよいよいとしく心ひかれると詠んだ恋の歌である。馴れ親しむほどに愛しさが増していく思いを、深い紅色の衣に寄せて晴れやかに表している。
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」であり、本歌は紅の衣に寄せて思いを述べている。前歌の第二千六百二十二首も衣がなじむことに寄せて「なれぬれど」と詠んでいたが、前歌では馴れてもなお恋を忘れかねるといい、本歌では馴れてもなおいよいよ愛しいといって、同じ趣向を一方は恋の苦しさ、一方は愛しさの深まりとして扱っている。次歌の第二千六百二十四首とは初句「紅の」を共有し、紅に染めた衣に寄せる歌が二首並んでいる。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「紅の」は、紅花で染めた鮮やかな赤色の、の意である。次歌の第二千六百二十四首も同じ初句で始まる。
二句「八しほの衣」は、何度も染め汁に浸して濃く染めた衣の意である。「八しほ」の「しほ」は布を染め汁に浸す回数をいい、「八」は数の多いことを表す。初句から二句までが序詞となり、四句の「馴れ」を導いている。
三句「朝な朝な」は、毎朝毎朝、の意である。衣を朝ごとに身に着けることと、朝ごとに相手と顔を合わせることとを重ねている。
四句「馴れはすれども」は、なじんではいるけれども、の意である。「馴れ」は衣が着慣れてなじむ意と、人に馴れ親しむ意とを掛けている。係助詞「は」で取り立て、「ども」は逆接の接続助詞である。
結句「いやめづらしも」は、いよいよ心ひかれることだ、の意である。「いや」はいよいよ、ますますの意、「めづらし」は新鮮で愛すべきだの意で、「も」は詠嘆の終助詞である。
くれなゐ:紅花で染めた鮮やかな赤色
やしほ:何度も染め汁に浸して濃く染めること
なる:衣が着慣れてなじむ意と、人に馴れ親しむ意を掛ける
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
志賀の海人の塩焼き衣なれぬれど 恋といふものは忘れかねつも
- 次の歌
-
紅の深染めの衣色深く 染みにしかばか忘れかねつる