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里遠み恋わびにけりまそ鏡
面影去らず夢に見えこそ

歌の意味
あなたの里が遠いので、恋に思い悩んでしまった。まそ鏡に映るように、面影が離れずに、夢に見えてほしい。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2634

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 恋人の住む里が遠くて逢えず、恋に思い悩んでしまったので、せめて面影が離れずに夢に見えてほしいと願った歌である。現実には逢えない距離を、夢の中での逢瀬によって埋めようとする切ない思いが込められている。
 前二首に続き、「まそ鏡」を含む鏡に寄せた一首である。左注によれば、この歌は上に見える柿本人麻呂の歌の句々が入れ替わって伝わったものである。本巻の第二千五百一首に「里遠み恋ひうらぶれぬまそ鏡床の辺去らず夢に見えこそ」とあり、二句と四句が異なっている。同じ歌が伝えられるうちに言葉を変えていったさまを示す例である。
 作者は未詳である。左注によれば、この歌は上の柿本朝臣人麻呂の歌の中に見えるが、句々が入れ替わっているので、ここに載せたものである。人麻呂歌集には人麻呂自身の作と、人麻呂が書き留めた他の人々の歌とが含まれるとされる。柿本人麻呂は持統朝から文武朝にかけて活躍した宮廷歌人で、三十六歌仙の一人である。

 初句「里遠み」里が遠いので、の意である。「遠み」は形容詞「遠し」の語幹に接尾語「み」が付いたミ語法で、恋人の住む里が遠いことを理由として示している。
 二句「恋わびにけり」恋に思い悩んでしまった、の意である。完了の助動詞「ぬ」の連用形「に」に詠嘆の助動詞「けり」が付き、ここで句切れとなる。第二千五百一首では「恋ひうらぶれぬ」となっている。
 三句「まそ鏡」よく澄んだ鏡の意で、鏡に影が映ることから「面影」にかかる枕詞である。
 四句「面影去らず」面影が離れずに、の意である。目の前を去らない恋人の姿をいう。第二千五百一首では「床の辺去らず」となっている。
 結句「夢に見えこそ」夢に見えてほしい、の意である。「夢」は古くは「いめ」といい、「こそ」は動詞の連用形に付いて他にあつらえ望む意を表す終助詞である。

こひわぶ:恋に思い悩む、恋しさに気落ちする
いめ:夢の古い言い方
作者
柿本人麻呂歌集
出典
万葉集
前の歌
まそ鏡手に取り持ちて朝な朝な 見む時さへや恋の繁けむ
次の歌
剣大刀身に佩き添ふる大夫や 恋といふものを忍びかねてむ