葛城の襲津彦真弓新木にも
頼めや君が我が名告りけむ
- 歌の意味
-
葛城の襲津彦の強い真弓の新木のように、私を頼もしく思ったからこそ、あなたは私の名を人に告げたのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2639
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
葛城の襲津彦が持つ強い真弓の新木のように、自分を頼みにしてくれたからこそ、あなたは私の名を人に明かしたのだろうかと問いかけた女の歌である。当時は恋人の名を人に明かすことは慎むべきこととされており、名を告げられた戸惑いと、それを相手の頼もしい思いの表れと受け止めたい気持ちとが込められている。解釈には諸説がある。
前歌に続き弓に寄せた一首である。葛城襲津彦は『日本書紀』に朝鮮半島へ遣わされたことが記される古代の豪族で、葛城氏の祖とされる。その名高い武人の弓を持ち出すことで、頼もしさのたとえとしている。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「葛城の」葛城の、の意である。今の奈良県西部、葛城山のふもと一帯の地名で、葛城氏の本拠地であった。
二句「襲津彦真弓」襲津彦の真弓、の意である。「真弓」は檀の木で作った弓、また弓の美称で、伝説的な武人である葛城襲津彦の強弓をいう。
三句「新木にも」新木のように、の意である。「新木」は切り出したばかりの木で、まだ乾かず強くしなる弓の材をいう。初句からここまでが序詞で、強い弓の頼もしさから次の「頼め」を導いている。
四句「頼めや君が」頼みにしたからか、あなたが、の意である。「頼めや」は已然形に係助詞「や」が付いた形で、疑問をこめた理由を表している。
結句「我が名告りけむ」私の名を人に告げたのだろう、の意である。「告る」は告げる、口に出して言う意で、過去推量の助動詞「けむ」が係助詞「や」を受けて連体形で結ぶ係り結びとなっている。
まゆみ:檀の木で作った弓、また弓の美称
あらき:切り出したばかりの木
のる:告げる、口に出して言う
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
梓弓末のはら野に鳥狩する 君が弓弦の絶えむと思へや
- 次の歌
-
梓弓引きみ緩へみ来ずは来ず 来ば来そをなぞ来ずは来ばそを