古典和歌stream

梓弓引きみ緩へみ来ずは来ず
来ば来そをなぞ来ずは来ばそを

歌の意味
梓弓を引いたり緩めたりするように、来ないなら来ない、来るなら来る、それなのになぜ、来ないかと思えば来たりするのか、そんなふうに。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2640

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 梓弓を引いたり緩めたりするように、来るのか来ないのかはっきりしない男の態度を、来ないなら来ない、来るなら来るでよいのに、と責めた女の歌である。「来」の語を何度も繰り返す言葉遊びによって、気をもまされる女のいら立ちを、なかば戯れるような調子で言い表している。
 前二首に続き弓に寄せた一首である。弓を引いては緩めるさまを、気を持たせては離れる男の態度にたとえている。下の句は訓み方と解釈に諸説があり、万葉集の中でも難解な歌として知られている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「梓弓」梓の木で作った弓の意で、弓を引くことから次の「引き」にかかる枕詞である。
 二句「引きみ緩へみ」引いたり緩めたりして、の意である。動詞の連用形に接尾語「み」を重ねて、二つの動作がかわるがわる行われることを表す。来たり来なかったりする男の態度のたとえとなっている。
 三句「来ずは来ず」来ないなら来ないで、の意である。「ずは」は打消の仮定条件を表し、同じ語を繰り返して言い切っている。
 四句「来ば来そをなぞ」来るなら来るで、それなのになぜ、の意である。「来ば」は仮定条件、「そを」はそれを、「なぞ」はなぜの意で、相手の態度を問いただしている。
 結句「来ずは来ばそを」来ないかと思えば来る、そのようなことを、の意である。「来」と「来ず」を入れ替えて繰り返し、どっちつかずの相手の態度をそのまま写すように歌を結んでいる。

あづさゆみ:梓の木で作った弓。「引く」「末」「張る」などにかかる枕詞
ゆるふ:緩める
出典
万葉集
前の歌
葛城の襲津彦真弓新木にも 頼めや君が我が名告りけむ
次の歌
時守の打ち鳴す鼓数みみれば 時にはなりぬ逢はなくもあやし