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小治田の板田の橋の壊れなば
桁より行かむな恋ひそ我妹

歌の意味
小治田の板田の橋が壊れてしまったなら、橋桁を伝ってでも行こう。そんなに恋い焦がれるな、我が妻よ。
鑑賞
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2644

詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
 小治田の板田の橋がたとえ壊れても、橋桁を伝ってでも通って行くから、恋い焦がれて嘆くなと、恋人をなだめ励ます男の歌である。通い路の橋という身近な物に寄せて、どんな障りがあっても逢いに行くという強い決意を示している。
 詞書の「物に寄せて思ひを陳ぶ」は、身のまわりの物や景物に託して恋の思いを述べる歌を集めた部立である。本歌は橋に寄せた一首で、次歌が杣山の民に、その次の歌が網の浮きの緒に寄せるなど、このあたりには人々の暮らしや仕事にかかわる物に寄せた恋の歌が続いている。
 作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。

 初句「小治田の」は、奈良県明日香村から橿原市にかけての地とされる小治田(小墾田)をいう。推古天皇の小墾田宮が営まれた地として知られる地名である。
 二句「板田の橋の」は、小治田にあった板田の橋をいうが、その所在ははっきりしない。助詞「の」を重ねて、地名から橋へと焦点を絞っていく句である。
 三句「壊れなば」は、壊れてしまったならばの意で、完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に接続助詞「ば」が付いた仮定条件である。三句までで、通い路の障害を仮に設けている。
 四句「桁より行かむ」は、橋桁を伝って行こうの意である。「より」は経由する場所を示す助詞、「む」は意志の助動詞で、ここで句切れとなる。
 結句「な恋ひそ我妹」は、恋い焦がれるな、我が妻よの意である。「な…そ」は禁止の言い方で、呼びかけの「我妹」で歌を結び、相手への思いやりを込めている。

けた:橋を支えるために柱の上に渡した横木、橋桁
わぎも:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
出典
万葉集
前の歌
玉桙の道行き疲れ稲席 しきても君を見むよしもがも
次の歌
宮材引く泉の杣に立つ民の やむ時もなく恋ひわたるかも