あしひきの山田守る翁が置く鹿火の
下焦れのみ我が恋ひ居らむ
- 歌の意味
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山の田を見張る翁が置く鹿火がくすぶるように、心の中で思い焦がれるばかりで私は恋い続けるのだろうか。
- 鑑賞
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巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2649
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
山の田を守る翁が焚く鹿火が表に炎を上げずにくすぶり続けるように、人に知られぬまま心の奥で恋い焦がれ続けるのかと嘆いた歌である。山里の素朴な景物に寄せて、表に出せない忍ぶ恋の苦しさを表している。
上三句は、鹿火が下でくすぶることから「下焦れ」を導く序詞である。前歌の墨縄に続き、山田を守る翁の営みという農村の暮らしに寄せた一首であり、次の次の歌にも難波の葦火が詠まれ、火に寄せた歌が近くに並んでいる。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「あしひきの」は「山」にかかる枕詞である。
二句「山田守る翁が」は、山あいの田を鳥獣から見張る翁がの意である。八音の字余りの句である。
三句「置く鹿火の」は、翁が田のそばに置く鹿火の、の意である。鹿火は鹿や猪などを追い払うために焚く火とされ、蚊遣り火とみる説もある。ここまでの三句が序詞となる。
四句「下焦れのみ」は、心の中で人知れず思い焦がれるばかりの意である。鹿火が下でくすぶることと、内に秘めた恋とを重ねている。
結句「我が恋ひ居らむ」は、私は恋い続けているのだろうかの意である。推量の助動詞「む」が、この先も続く忍ぶ恋への嘆きを表している。
かひ:鹿や猪などを追い払うために田畑で焚く火
したこがる:心の中で人知れず思い焦がれる
- 出典
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万葉集
- 前の歌
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かにかくに物は思はじ飛騨人の 打つ墨縄のただ一道に
- 次の歌
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そき板もち葺ける板目のあはざらば いかにせむとか我が寝そめけむ