天雲の八重雲隠り鳴る神の
音のみにやも聞きわたりなむ
- 歌の意味
-
空の雲の幾重にも重なった雲に隠れて鳴る雷のように、あの人のことを噂にばかり聞き続けるのだろうか。
- 鑑賞
-
巻第十一 古今相聞往来歌類之上 2658
詞書は前の歌に続き「物に寄せて思ひを陳ぶ」
幾重もの雲に隠れて鳴る雷の音だけが聞こえるように、恋しい人の姿を見ることもなく、噂ばかりを聞き続けることになるのだろうかと嘆いた歌である。雷鳴に寄せて、遠く隔てられて逢うことのできない恋のもどかしさを表している。
上三句は、雲に隠れて姿を見せずに鳴る雷から「音」を導く序詞である。前歌までの神の社や神祭りに続き、「鳴る神」すなわち雷に寄せた一首であり、神に寄せる歌の一群の中に置かれている。女性の歌とする見方がある。
作者は未詳である。巻第十一の作者未詳歌は、名を伝えない人々の恋の歌を集めたものである。
初句「天雲の」は、空にある雲のの意である。次の「八重雲」へと続けて、空の高く遠いさまを示している。
二句「八重雲隠り」は、幾重にも重なった雲に隠れての意である。姿の見えないことを表し、相手の遠さを思わせる。
三句「鳴る神の」は、鳴る雷のの意である。「鳴る神」は雷のことで、ここまでの三句が序詞となり、次の「音」を導いている。
四句「音のみにやも」は、噂ばかりにの意である。「音」は雷の音と、人の噂の意とを重ねている。係助詞「や」が疑問を表し、結句の推量と係り結びをなしている。
結句「聞きわたりなむ」は、聞き続けることになるのだろうかの意である。強意の助動詞「ぬ」の未然形「な」に推量の「む」が付き、連体形で四句の「や」を受けて結んでいる。
やへくも:幾重にも重なった雲
なるかみ:雷
おと:物音、また人の噂や評判
ききわたる:長い間聞き続ける
- 出典
-
万葉集
- 前の歌
-
神なびにひもろき立てて斎へども 人の心はまもりあへぬもの
- 次の歌
-
争へば神も憎ますよしゑやし よそふる君が憎くあらなくに